物語の再構築(2)


2011 . 09 . 18 19 : 01  その他
物語の再構築(2)
―錯時法と時間軸操作―


<第二回目です!>
 ほいほい。文学の「ぶ」の字も知らない理系学生が、ナラトロジーに首を突っ込んでしまおうというこのコーナー、本日で二回目でございます。今回は、ジェラール・ジュネット『物語のディスクール:方法論の試み』の第一章、「Ⅰ順序」から、時間軸操作を語る上で必要な用語・概念を導入して行きたいと思います。
 時間軸操作。回想だったり、あるいは、未来のことを先に説明してしまうことなど、色々なパターンがありますね。普通、私たちは、その時間軸操作の方法をカテゴライズすることはできません。なんとなく頭の中で分類できても、それを明文化し、分析をするための言葉を持っていないのです。そこで、物語論の世界から、専門用語を輸入して、批評や考察の役に立ててしまおうというのです。今回は、前半で専門用語と概念のまとめ、後半では実際の創作への応用例を示します。小難しい前半はかる~く読み飛ばしてくださってかまいません。
 ではでは早速、基本用語から。


<物語言説と物語内容?>
 まずは下記の二単語を抑えておきましょう。
 内容そのものと表現形式を別々のものとして扱う、というやり方は以後、頻出します。

[キーワード]
物語内容:語られる内容そのもの。
物語言説:テクスト自体。別名、物語表現。


<錯時法>
「物語は二重に時間的な連続要素である…… というのも、語られたことがらの時間と
     物語そのものの時間(シニフィエの時間とシニフィアンの時間)とが存在するからだ」

――ジェラール・ジュネット『物語のディスクール:方法論の試み』

 「ストーリー」と「プロット」の時間軸は多くの場合、別ものであることをご存知でしょうか。「ストーリー」は物語の内容を起きた順番に並べたもの、すなわち自然な時間の流れに沿って並べたものです。一方、「プロット」の時間軸は出来事を語る順番に並べ替えたものです。このように、ストーリーとプロットで、出来事が語られる順番が違うこと、わざと順番を変える技法を『錯時法』といいます。物語の技法として、最もオーソドックスな『回想』も錯時法の一種です。
 錯時法は大きく三つに分けることができます。ひとつは『先説法』(prolepse)。あとから生じる出来事をあらかじめ語る言説のことです。例えばA-B-Cという順で語る出来事をC-A-Bの順で語ることですね。後に起きる出来事を、説明する方法です。この先説方は効果的なオープニングの方法として、よく使われています。詳しくは後半のほうで。二つ目は『後説法』(analepse)。これは先説法と全く逆。物語の現時点より前に起きた出来事を、になってから説明する方法です。3つ目は『空時法』。これは難しい上、滅多に出てこないので省略します。解説を読んでも理解できなかったわけじゃないんだからね!
 次の節ではもう二つ、重要な概念を導入します。

[キーワード]
錯時法:時間軸操作の方法。
先説法:後から生じる出来事を、先に説明する方法。
後説法:前に起きた出来事を、後から説明する方法。


<錯時法の射程と振幅>
 錯時法の定性的な定義ができたのなら、次は定量的な定義が必要になってきます。物語にはまず、今語っているという「現時点」があります。一方、錯時法によって語られる過去なり未来なりと、「現時点」の間には時間的距離があります。これを『射程』(portée)といいます。例えば、現時点より一年前の出来事を語ったとすれば、射程は一年です。
 次は『振幅』(amplitnde)。錯時法によって語られる出来事の持続、すなわち物語の長さのことをいいます。例えば、現時点から一年前の三日間の出来事を語る場合、振幅は三日です。
 ここまでは簡単ですよね? 次の節からどんどん難しくなって行きますよ!(`・ω・´)

[キーワード]
射程:現時点と、錯時法によって語られる出来事との間の時間的距離。
振幅:錯時法によって語られる物語の持続。


<後説法を詳しく!>
 今までは物語の「現時点」といっていたポイントを、『第一次物語言説』と呼ぶことにします。この第一次物語言説との関連があってはじめて、ある物語を錯時法と定義できるので"第一次"といいます。次に、「その振幅の全体が第一次物語言説のそれの外側にはみ出す」種の後説法を『外的後説法』といい、一方、「はみ出していないもの」を『内的後説法』といいます。例えば[A:小説の始まり]-[B:現時点(第一次物語言説)]-[C:後説法]というプロットがあったとします。この時、後説法の内容が、[A:小説の始まり]より前の出来事であれば『外的』、AB間の間の出来事であれば『内的』後説法なのです。この外的、内的という分類に加えて、さらに『異質物語世界的』『等質物語世界的』という分類法があります。
 『異質物語世界的』後説法とは、「第一次物語言説とは異なる傍系の物語を後説法として語ること」を言います。例えば、Aという人物の物語があるすると、Bという人物に関するストーリーラインはAのそれとは別物ですよね?この時にBの過去の物語を語ることを異質物語世界的後説法といいます。逆に、この時、第一次物語言説と同じストーリーラインの物語を語ることを『等質物語世界的]』後説法といいます。
 ちょっとややこしくなってきたので、役割の説明を加えてまとめてみましょう。

[キーワード]
等質物語世界の外的後説法:「外的」であるために、第一次物語言説と干渉しない。
                    故に役割は、ある「経緯」を補足することである。
異質物語世界の外的後説法:同上
等質物語世界の内的後説法:役割の一つを『補完的後説法』という。
                      「物語言説の過去の部分における欠落をあとになってから満たす
                      回顧切片」である。もう一つの役割を『反復的後説法』といい、
                      別名、再説という。読んで字のごとく、過去に語った内容を
                      もう一度繰り返すことである。
                      工夫なしでは冗長性を免れない。
異質物語世界の内的後説法:冗長性は生じない。異質的な別の物語を組み込むことができる。


<次は先説法!>
 (´・ω・`)。o0(書いてて疲れてきたけど、がんばろう)
 後説法は外的、内的、等質物語世界、異質物語世界と分けることができました。お察しの通り、先説法も同様に分けることができます。一気にまとめてしまいましょう!

[キーワード]
等質物語世界の外的先説法:通常、エピローグの役割を果たす。
異質物語世界の外的先説法:同上。
等質物語世界の内的先説法:後説法同様、『補完的先説法』、『反復的先説法』に分かれる。
異質物語世界の内的先説法:別の傍系の物語を、第一次物語言説に組み込むことができる。


<まとめ>
 物語言説の錯時法には、[異質物語世界or等質物語世界]×[外的or内的]×[先説法or後説法]で2×2×2=8通りの錯時法があります。これに混成錯時法と空時法を加えて10通り。今回は基本的な概念を導入しましたが、次回ではそれを使って、実際の創作論に結びつけていきます。こんなの何の役に立つの?と思った人、次回できっと役立つ理由がわかるはずです。
 次回は物語の再構築(3)―錯時法と創作論―です。
 今日はここまで。ではまた次回の更新にてッ!



物語のディスクール―方法論の試み (叢書記号学的実践 (2))
定価:¥ 5,250
レビュー平均:5.05.0点 (2人がレビュー投稿)
5.05.0点 「ポストモダン」ではない必読書
5.05.0点 ナラトロジーの基本書なのに、書評がなく、驚いた。
出版社:水声社
作者:ジェラール・ジュネット
by 通販最速検索 at 2011/08/27
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